仙台高等裁判所 昭和42年(ツ)29号 判決 1968年8月12日
上告人 秋谷良之助
被上告人 塩原隆一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人内野房吉の上告理由について
原判決(その引用する一審判決を含む。)の確定したところによると、被上告人と訴外大柳幸造は、昭和二六年一〇月一日その共有であつた、合筆分筆前の青森市大字大野字長島一二一番三三号宅地のうち東側の一部を除く一〇九坪九合四勺(実測)を賃料一ケ月四〇〇円、毎月末日持参払の約で上告人に賃貸していたところ、右三三号の宅地がその後昭和三三年八月一五日合筆分筆されたうえ、共有物の分割がなされた結果、上告人の賃借している右土地は、以後被上告人の単独所有となつた同所五六号の土地と大柳幸造の単独所有となつた土地とに跨つて存在することになつた(右合筆、分筆及び共有物の分割については登記済。)。ところで上告人は昭和二六年一〇月一日以降右賃料を全然支払わないので、被上告人は期間を定めて未払賃料の一部の支払を催告し、且つこれを支払わないときは被上告人の単独所有となつた右五六号の土地のうち本件土地に関する部分の賃貸借契約を解除する旨の条件付解除の意思表示をなしたが、上告人は所定の期間内にその催告にかかる未払賃料の支払をしなかつたというにあるところ、上告人が原審において、所論のとおり「本件土地は、当時共有者であつた被上告人及び大柳幸造の両名から賃借したのであるから、右両名が共同して解除の意思表示をなしたのであれば格別、被上告人が単独でなした解除の意思表示はその効力を有しない。このことは一二一番三三号の宅地が合筆、分筆され更に共有物が分割された結果、同番五六号の土地が被上告人の単独所有になつたとしても何ら差異を生ずるものではない。」旨主張したことは記録上明らかである。
しかしながら、右主張は、要するに、被上告人のなした本件解除の意思表示が有効か否かに関するものであるが、一審判決はその六枚目表四行目の「ところでヽヽヽ」以下七枚目表四行目までの部分において本件解除が有効か否かの点について判断し、結局本件解除が有効である旨判示しているものであり、原判決も一審判決の右理由を引用してこの点について判断しているものであることは一審判決及び原判決の理由記載に徴して明らかであるから、原判決に所論のような判断遺脱の違法があるということはできない。
しかして、共有であつた賃借地がその後共有物の分割の結果分割され、その一部づつが単独所有になつたとしても、他に特段の事情のない限り、従前一個の契約であつた賃貸借契約が当然に単独所有となつた土地毎の数個の賃貸借契約に変更されるものと解することはできないから、共有物の分割後も従前の賃貸借契約がそのまま存続するものと解するのが相当であるが、共有物の分割によりその単独所有となつた土地については、互いに他の者の管理処分の権限はなくなり、該土地に関する管理処分の権限は、その単独所有となつた者においてのみこれを有することとなるのであるから、従前から存続している賃貸借契約全部を解除する場合は格別、その全部ではなく各単独所有となつた土地に関する部分のみの賃貸借契約を解除する場合には、その所有者である賃貸人において単独でこれを解除することができるものと解するのが相当である。
本件において、共有物の分割の結果、一二一番五六号の土地が被上告人の単独所有となつたものであり、被上告人の本件解除も被上告人の単独所有となつた本件土地に関する部分のみについてなされたものであることは前記のとおり原審の確定するところであるから、被上告人が単独でなした本件解除を有効とした原審の判断は結局正当であつて、原判決に所論のような審理不尽、法律の解釈を誤つた違法があるとは認められないから、この点に関する論旨も採用することができない。
よつて、本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 村上武 松本晃平 伊藤和男)
上告理由
原判決は上告人の抗弁に対する判断を逸脱し、且法律の解釈を誤りたる違法がある。
1 本件土地を含む青森市大字大野字長島一二一番の三三号宅地九九坪三合八勺(実測一〇九坪七合四勺)は訴外大柳幸造及被上告人の共有なりしところ、昭和二六年六月一一日東側九坪八合を除く部分に付、無期限、賃料一ケ月四〇〇円の定めにて賃貸借契約をなしたところ、その後三三年八月一五日合併、分筆して、被上告人は青森市大字大野字長島一二一番五六号宅地二九坪一合一勺を単独所有したものであるが、上告人との間にその範囲を特定し(原判決添付図面イ、ロ、ハ、ニ、ホ、へ、ト、チ、イの範囲)賃貸借契約をなしたものではない。該範囲は被上告人において上告人に対し、擅に特定し通知したものである。
さきに上告人は右宅地上に木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅一棟建坪一二坪を所有したりしが、昭和三四年頃訴外黒田徳松に対し売却し(借地権の譲渡をなさず)その二年後において、被上告人が該建物の所有権を取得したのであるけれども前記の如く賃借権を返還したものでないから、該部分についても上告人に賃借権があるものである。
2 被上告人は上告人に対し契約解除の通知をなしたというにあるが、叙上の如く本件土地は(分筆前)共有者訴外大柳幸造及被上告人両名において賃借したものであるから、これに対する解除は共同して本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなしたのであれば格別、被上告人が単独でなした賃貸借契約解除の意思表示はその効力を有しないものである。
このことは一二一番三三号宅地が他の宅地と分筆された結果本件土地が一二一番五六号宅地の一部となり被上告人の単独所有に帰したとしても何らの差異を生じるものではない。
との抗弁に対し原判決は何らの判断をもしていない。審理不尽の違法及び法律の解釈を誤りたる違法あるものとして破棄を免れないものである。